佐伯所長のケーキ

三井造船玉野造船所のなかにある五洋建設三井船渠工事事務所は仮説ハウスの2Fにあり、IFは下請けの八光建設工業と壺山建設が入っていた。

秋の日の午後五時くらいであったろうか、佐伯所長の机の後ろの棚にケーキの箱があった。

佐伯所長が外出した便に買ってきたのであろう、事は想像できた。

その頃、第一ドック第二ドックの合併工事は連日生コン打設で夜半まで工事をしていた。
その日も午後五時を過ぎてもあたりまえの状態で社員、下請け全員現場仕事をしていた。

午後九時頃、電話が鳴り僕が取った。受話器から「お父さんはまだ仕事ですか?」
もう想像が付いていた。子供さんが”さえきです”と名乗らなくとも。
今日は子供さんの誕生日だったのだ。

「所長、家から電話です。」と言う僕もつらかった。

佐伯さんは受話器を取って「ウン・・・もうすぐ帰るから」と、まだ帰れないのをわかって言っている。


当時僕は独身だったが仕事に対する考え。仕事と家庭との天秤。当時も今も、その時のこと、その時思ったことはよく憶えている。



(佐伯さんの子供さんからの電話はこの一回だけだ。
奥さんからは他にもある。当時は会社に電話はいくらか当たり前の時代でもあった)


佐伯さんは今、五洋建設の副社長をされている。


2001年6月11日



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