一本のバナナ


僕が小学校の三年生か、その一年前後のある春の城見小学校の家庭訪問の日。

その日一本のバナナを母は用意した。


バナナは雑誌のグラビアでスターの飾りものとか、それを想像して絵に描くもので僕たちの食べ物というにはあまりに遠い存在の果物であった。
が、それを目の前にしたからには一度食べてみたくなるのは当然ともいえる。

一本のバナナを母は庖丁で真中から切った。
そして半分のバナナを家庭訪問の先生に準備した。

残った半分を僕たち三人兄弟用として3分割に切った。

初めて食べる(夢の)バナナは意外とおいしいものではなかった。
おいしくないものではないが、夢の食べ物は夢のほうがよかったのかな?と子供ごころに思った。


母が子供に分けた親ごころの思い出と、
初めて食べる嬉しいバナナと、その時に感じた・・・理想と現実のようなもの・・・は、づっとなにか今でもひきずっている。



2000年11月17日