呉の川原石の工事現場の所長は長瀬さんという人で、当時32歳くらいの人だった。
この事務所はIHI新宮工場の埋め立て工事と、呉市の護岸工事の二つを受け持っていた。売上高のみなら会社の看板工事であったIHI呉造船所80万トンドッグ建造工事より多い16億くらいで、利益は1〜2割あった。
長瀬さんの自慢は。
「八丈島にいた時台風が来た。現場事務所みんなでマージャンをしていた。一度現場をみようと出ていった。
それがNHKの7時のニュースの最初の映像画面で写り、会社のヘルメット姿が数人写り、うち自分は顔まではっきりと映し出され。
あとで会社の重役から直接褒められた。」
ある秋の日、川原石の二階事務所から下をみたら。大きな外車がはいって来た。外車は原色、で中からイロハシャツを来たキザな姿の男が降りていた。
「今時の営業マンには派手なのがいるなぁ。」と、思ったが、それはただの営業マンではなかった。
その車から降りてきたのは一人ではなかった。二階事務所にあわられたのは三人だった。
一人は最初みた派手な男。次が見るからにヤクザが着る縞模様の背広。その次が相撲取りなみの大男、人相ははなはだ悪し。
こういう三人連れだった。
長瀬さんを取り囲むように座った三人は役割が決まっていた。
縞模様の男がじんわりと「この世界の話」をしゃべる。
アロハは大げさに時たま調子をいれる。
相撲取りはいっさいしゃべらない。更なる威圧感をあたえる役目。
外車の男は、原価数万の工事用ロープまたは消火器を数十万円で売りにきていた。
男たちは執拗に購入を迫る。
が、長瀬さんは購入せずに「ココ(現場事務所では)には権限がないから。」と丁重に断った。
男たちは長瀬さんの名刺だけを手にして帰った。
(この名刺は、次の男たちの行き先で使われる。「この会社の、この人からも購入してもらったのだから。」)
この日、五洋建設のある現場事務所の所長は、その威圧に負けロープを購入した人がいた。
数日後、男たちは呉事務所に現われた。
もうココでは権限がないからとの理由は言えない。
応対した総務課長はさんざん購入数を落とす話をして、40〜60万円ほどの購入をした。
男たちが帰った後、床にはタバコの吸殻が散らかっていた。総務課長「くたべびれるのう。」のつぶやき。
その費用の処理は、呉事務所の10箇所くらいある現場事務所に分散し、そのまた数十ある各個別工事の材料費として処理された。当時売上55億位の呉事務所の請求・証憑類では豆粒以下の費用として処理された。
2002年6月8日