父のタバコ


昭和42年の正月休み、姉は数人の男性とお見合いをした。
結局、その内の人とその4月結婚式を挙げた。姉は大学卒業後1年の勤務をしただけだった。

この年の春、僕が大学生になった。その上に2歳違いの兄が大学の3年生。

そういう経済状態の中なので、父も母も仕事(農家)に精をだしていた。

子供の頃、父の吸うタバコは「しんせい」といって両切りのタバコだった。
手伝いで近所の店にタバコを買いに行く時は「タバコをください。」と言えば、店のおばさんは「しんせい」を渡してくれていた。

その頃村の青年団の人が吸うタバコにはフィルターがついていた。
こういうタバコもあるのか?と発見したような気にもなっていた。

そのうちいつの間にか、父が吸うタバコにもフィルターが付いたタバコになった。それは一番安い「エコー」。一箱20本入りで30円。
父はそのタバコを愛用していた。フィルターつきタバコに時代がなっていく頃、子供の学資が一番要る時と重なった。

それから二年経ち、兄が卒業していいき、残るのは僕だけになった春。
父のタバコは「わかば」になった。このタバコは50円するタバコ。エコーよりはやわらかい感じがするタバコである。


それからまた二年経ち僕の卒業が目前になった春。この春で父は長女誕生以来続いた子育てにひとまず区切りがつく。その頃の父も母もそういう家計状況で苺をはじめ果物つくりも表情に余裕がでていた。父のタバコは「ハイライト」に変わっていた。

父はお金のことは何も言わなかったが、吸っているタバコで親が子に語るような気がしていた。

2002年2月14日

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