中国新聞 2001年(平成13年)(2月16日)金曜日 井笠圏

 

1999年7月末、笠岡湾干拓地の農地購入者のうち土地代金返済が滞っていた5人の農地計約13ヘクタールが笠岡市に差し抑えられた。未収金は、延滞金を含め計約1億2800万円。苦悩する農家の姿が浮き彫りになった。

 

同干拓地の農地は、契約により取得後10年間の転売が禁止されている。

干拓地完成10年を迎える2000年3月を前に、私は転売防止の措置に踏み切った。

 

縛りが解けると実際に転売はあいついた。当初配分を受けた農家のうち、これまでに計6戸農地がそれぞれ別の農家に渡った。

 

昨年末には集団営農を目的とした茂平生産法人も解散し、34人の共有だった12. 8ヘクタールをここに分配することに。

もうひとつの神島生産法人(61ヘクタール、124人)も解散を検討中だ。大規模営農の基盤が揺るぎ始めている。

 

かさや農協の山室秀男営農部長は「水田ならともかく、畑地としては配分が大きすぎた。5ヘクタールを取得した耕種(畑作)農家を中心に土地を持て余している。」と現状を語る。

 

干拓地は計画段階で稲作から畑作に用途変更された経緯がある。米の代わりに処理し奨励された麦類の作付けは、価格低迷などの影響で10年前に200ヘクタール以上あったのが99年度には94ヘクタールに半減。

施設栽培に活路を見いだす農家が増え、雑草が生えたままの土地も目立つ。

土地代徴集に当たっているし市耕地林務課の森井伸課長は「土地の有効利用の観点から滞納者には今後、部分的な農地の転売を勧めることも考える」と明かす。

これに対し、農地サイドは大規模にこだわる。同じ市でも農政水産課の石井英明課長は「土地の切り売りは困る」と強調。

 

ただ「規模がそのままなら、意欲的な農家に引き継がれることはいいこと」とも付け加える。

 

干拓地内にはもともと、投機目的の土地取得者も多いといわれ、営農者の高齢化も新たな課題として浮上する中、農政水産課は、転売解禁を「仕切り直し」にしたい考えだ。

 

夢と現実のはざまに立たされる農家の悩みは深刻だ。差し押さえを受けたある耕種農家は打ち明ける。「経営を維持するための多額の設備投資と年5,000,000円以上の土地代。両方払えば食べていけなくなる。」

 

完成10年が過ぎ、新たな世紀を迎えた笠岡湾干拓地。広大な大地でさまざまの動きや現象が見られる。その断面を紹介する。 松本大典

 

 

メモ

笠岡湾干拓地の一般配分地は478ヘクタール。県農地開発公社が昨年までに94戸2法人に分譲。うち当初配分は84戸2法人。土地代はそれぞれ25ローンで毎年返済。農家の要望で92年93年度に一括償還を受け付け、3割程度が支払いを終えた。