「いきなり、パチパチとピストルのような音がする。
私は多分、写真を撮るのでマグネシウムを焚いたのだろうと思っていた。
突然、近くにいた警官が”それ、やられた!”
と大きな声で駆けていった。おや、と思って向うの方を見ると、大変な人だかりで、誰やら担がれて行く。それは浜口首相であった。
何分大勢の群集で、なかなか近寄れない。
ようやく貴賓室にかけつけると、浜口君はもうグッタリと横になっていた。
秘書官の中島君が洋服をあけ、シャツを脱がすと、どっと血が出る。浜口君は苦しい呼吸の下からハッキリと、
「男子の本懐だ!」といっている。
幣原喜重郎『外交五十年』
2001年10月21日