徐州にいったのは昭和13年5月じゃった。 まだ徐州戦の真っ只中の時期。 その頃はまだ中国は強かったんど。 |
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我々の進軍は何処まで行っても麦畑から逃れることが出来ない。・・・・ 土の色も繪河を渡って徐州に近づくにつれ赤味を帯びて来たようだ。 麦畑は何処まで行ったもつきない。・・・ 山の絶頂にこちらを見ている人影がある。望遠鏡で見ると土民である。 クリークに青い羽の蜻蛉が飛んでいる。飛行機が何台もしきりに飛んでいる。左手の山の遥か向こうに繭のような気球が上がっているのが見える。徐州に入城した萩州部隊が気球を持っていると聞いたことがあるので、その気球のあるところが徐州に違いない。 (日野葦平「麦と兵隊」より) |
2000年07月10日