2019年6月3日  月曜日  10:58〜12:07
笠岡市笠岡  オール読物 伊東潤「潮待ちの宿・紅色の折り鶴」






「志鶴ちゃんは優しいな。市之進が羨ましいよ」
「えつ」
「二人の様子を見れば、すぐに分かる。それが分からなければ、町年寄なんてできねえよ」
顔を染める志鶴を残し、佐吉は笑みを浮かべて去っていった。







旧浜街道、(岡山〜福山?)

鴨方往来(岡山〜笠岡)、笠岡街道・福山街道(どちらも笠岡〜福山)と呼ばれていた。











助市小路。








「ところで、決心はついたかい」
「真なべ屋を売ることですか」
「ああ、そうだ。
おかみさんの残した真なべ屋のことを考えて、幸せを逃がしちゃいけねえ。俺は--
志鶴ちゃんに、俺とおかみさんのようにはなってほしくねえんだ。
市之進はいい男だ。もう待たないで幸せを掴み取りなよ」
「ありがとうございます」






”真入川”は明治の初期までは川だったようだ。
















佐吉親分の家は代官所の近くにあった。










代官所と並び、

町の中心に遍照寺があった。












「真なべ屋は売らないことにしました。
お金なんかどうでもいいんです。

朝、起きて戸を開けて、ここから笠岡の海を見下ろすことは、何物にも代え難いものだからです。」

「そうか。その通りだな」佐吉もうなずく。
瀬戸内海は穏やかな光に包まれていた。
夕日は今にも右手の海に沈もうとしている。
「確かに、こいつは何物にも代え難い眺めだな」

志鶴は夕日に向かって誓った。
--きっと幸せになってみせる。その時、おかみさんも夕日を眺めている気がした。
おかみさん、これからもずっと一緒ですよ。
夕日は、笠岡の町と海を紅色に染め上げていった。
 (完)









 









今年の秋に、文芸春秋より単行本が発売されるそうだ。








 


鴨方パンまつり



2019年6月4日